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仙台高等裁判所 昭和33年(ラ)68号 決定

抗告人 株式会社青森銀行

相手方 千代田容器株式会社

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は、相手方・抗告人間の青森地方裁判所昭和三二年(モ)第三二八号訴訟費用額確定決定に対し、即時抗告を申立て、その抗告理由は次のとおりである。

相手方は相手方(原告・被控訴人)・抗告人(被告・控訴人)間の青森地方裁判所昭和二九年(ワ)第二九六号、仙台高等裁判所昭和三一年(ネ)第四四九号詐害行為取消請求事件の確定判決にもとづき、昭和三二年九月一八日青森地方裁判所に対し訴訟費用額の確定を申立て、同裁判所は昭和三三年六月三〇日抗告人の負担すべき訴訟費用額を一六三、三五五円と確定する旨の決定をしたが、該決定書添付の計算書によると、抗告人の負担すべき第一審の訴訟費用として、(1) 相手方代表者の出頭日当、往復旅費及び宿泊料につき各四回分を計上し、(2) 準備書面書記料及び甲号証写書記料を相手方が提出した計算書より多額に認定したが不当である。すなわち、

(一)  相手方代表者が第一審青森地方裁判所に四回出頭したとしても、相手方の都合により尋問されないで三回延期されたのであるから、出頭した四回のうち三回は、相手方代表者が呼出を受けないで出頭したと同様であり、その費用を訴訟費用に計上すべきでない。(有斐閣民訴法講座第三巻九二一・九二二頁)、もし、訴訟記録中に現われたすべての費用を訴訟費用であるとすると、当事者が陳述しない準備書面の作成費用も訴訟費用に計上しなければならないこととなり不合理である。(日本評論新社コンメンタール民訴法I三一四頁)

右のような費用は民訴法第九〇条にいわゆる「権利ノ伸張若ハ防禦ニ必要ナラサル行為ニ因リテ生シタル訴訟費用又ハ訴訟ノ程度ニ於テ相手方ノ権利ノ伸張若ハ防禦ニ必要ナリシ行為ニ因リテ生シタル訴訟費用」のように判決裁判所の判断をまつて費用の負担者を決定すべきではなく、その判断にまつまでもなく訴訟費用とならないものである。

(二)  裁判所は訴訟費用額確定の申立においても、当事者の申立てた額に拘束され、その以上の額を相手方に負担させることは許されない。というのである。

よつて判断するに、原審が(イ)相手方代表者が第一審口頭弁論期日に出頭した昭和三〇年四月一一日・同年六月一日・同年七月二五日・同年九月二六日の日当として七二〇円、(ロ)相手方代表者の出頭旅費(上野・青森間往復四回分二等汽車賃及び急行料金)として二七、〇四〇円、(ハ)相手方代表者の止宿料(出頭一回につき宿泊二日、八日分、一日当り七五〇円)として六、〇〇〇円を抗告人の負担すべき訴訟費用に計上したことが明らかであり、前記詐害行為取消請求事件記録によると、相手方代表者保坂正美は、第一審青森地方裁判所の呼出により(1) 昭和三〇年四月一一日午前一〇時、(2) 同年六月一日午前九時、(3) 同年七月二五日午前一〇時(4) 同年九月二六日午前一〇時の各口頭弁論期日に出頭したが、右(1) ないし(3) の口頭弁論期日において相手方訴訟代理人はその都度相手方代表者の尋問を次回にされたい旨申立てるとともに裁判所はこれを容れて尋問を順延し、第四回目の右昭和三〇年九月二六日の口頭弁論期日に相手方代表者保坂正美の本人尋問が行われたことが明らかである。

しかし、右相手方代表者本人尋問が右のように延期されたのは、これと同時に施行される予定であつた証人が出頭しないためにされたものであることが右記録上明らかであり、相手方代表者が右(1) ないし(3) の期日に出頭したことは、当時の情況から相手方の権利の伸張又は防禦のため必要でないということができないから、そのため生じた費用を抗告人の負担すべき訴訟費用額に計上した原決定に違法はない。抗告人は当事者が呼出を受けないで訴訟代理人とともに出頭した場合及び当事者が陳述しなかつた準備書面を作成した場合の例を挙げて原決定を非難するけれども本件の場合これらの場合と同視することはできない。

抗告人は、裁判所は訴訟費用額の確定申立においても、当事者の申立てた額に拘束され、それ以上の額を相手方に負担させることは許されないと主張し、本件記録によると原審が準備書面・証拠申出書・証拠写などの書記料につき、相手方の申立額を超えて各その額を決定したことが明らかであるが、原審は相手方の申立総額一八四、〇〇〇円の範囲内において、所定の料金額に従い計上したことが明らかで、前記詐害行為取消請求事件記録を調査するも右料金につき計算違はない。)申立額を超えて費用額を決定した違法はないから右の主張は理由がない。

よつて、民訴法第四一四条・三八四条・九五条・八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 斎藤規矩三 鳥羽久五郎 羽染徳次)

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